《5》The People with Special Need
〜配慮が必要な人々〜



この写真は昨年(2000年)の夏に一時帰国した際に撮ったもので、

座って1人で撮れた唯一の写真です。

バボーは渡米時3歳だったのだけれど、あまりの多忙さにお参りどころか

写真館にすら行けなかった。

だから母は、お手伝いしてくれる義父母の手がある一時帰国中にどうしても

バボーの七五三の写真を撮りたいと思っていた。

こうくんが迷惑をかけるのは必至なので、義父母が良く利用している

昔馴染みの写真館を選び、

予約する際に「下の子は障害があるので家族写真は撮れるかどうか

わかりませんが、お願いします。」と頼んでおいた。

つまり、この時点で「こうくんの一人の写真」など全く考えていなかった。

数えで5歳のりっぱなお祝い子様だったのだが。



撮影当日、写真館にはこうくんの興味を引きそうなモノばかりが転がっていた。

絶対にこうくんを下に降ろしてはイケナイ。

大人3人はそう確信した。

バボーと母のみが写真館へ入り、こうくん、父、義母は外の駐車場で

待機することにした。

バボーの着付けをしてくれていた奥さんが「下の息子さんはおいくつ?」と聞く。

「4歳なんですが、脳に障害があってじっとしていられないので

家族写真の撮影の時だけ連れてこようと思ってるんです。」

そんな話をしていたら、義母がこうくんを抱っこして入ってきた。

父が疲れてたばこでも吸いたくなったのだろう。

こうくんの顔を見た瞬間、その奥さんはにっこり笑ってのたまわった。

「あら〜 自閉ちゃんだったのね?」

奥さんには自閉症のお兄さんがいて、今は老人用の施設に入っているのだけれど、

50歳になるまでずっとお世話をしていたのだそうだ。

「カメラマンは息子だけど、慣れてるからボク1人のお写真も撮ってみたら?」

奥さんはにこやかにそう言った。



「絶対無理やて〜」

そう言って嫌がる父を説き伏せてこうくんの一人写真に挑んで貰う。

母は何年かぶりに髪を結い上げ着物を着ていて、こうくんを抱っこすることも

できない状況だったし、バボーのご機嫌取りにいそしんでいたので、

実際の撮影現場は見ていない。

父はこうくんの脇にスタンバイし、こうくんの好物のジェリービーンズを

1コ与えてはさっと体をよけ、食べ終わって動き出す前に又1コ与える役。

写真館の従業員も、総出でこうくんの気をひこうとおもちゃで音を出したり、

ボールを投げたり、色々やってくれてらしいが、

こうくんの関心はただ一つ、ジェリービーンズのみだったから、

父はカメラマンがいいと言うまで延々と繰り返していたらしい。

で、撮れたのが上の写真。

決して、決して、普通に椅子に座って撮った訳じゃないんです。

出来上がった写真を前にして、父に「大変だったでしょう?」と聞いたら、

「いや、そんなに大変じゃなかった。

ただ、写真館の人達があんまり一生懸命やってくれるんで、

もう、ホントに申し訳なくて。こんな息子の為にすみませんって感じだった。」

そんなの商売だもん当たり前じゃん、と思ったけどもちろん言わなかった。

実際、日本に帰国してしていた1ヶ月の間にイヤな思いをたくさんした。

日本の某航空会社はこうくんの状況を一生懸命説明したのに(日本語で!!)

規定にないからとバギーをシップサイドに出してくれなかった。

(アメリカの航空会社は片言の英語で頼んでも、理由も聞かずに出してくれる)

長蛇の列の税関で、私達がどれだけ苦労したか想像できるだろうか?

(帰国の際は手荷物として機内に持ち込むしかない。カーシートもあるのに・・)

スーパーではケタケタと大声で笑い、最後はバギーからずり落ちてしまう

こうくんはまさに「白い目」で見られた。

”Hey! Happy boy, you are strong!!"と言ってくれとは言わないけれど、

(もちろん、アメリカ人は言います)

どうして、ヒソヒソコソコソ話したり、大きくよけていく必要があるんだろう?

「何であんなに笑ってるの?」と子供にきかれた母親が

「しっ、見るんじゃないの」と逃げるように走り去る。

おいおい、こうくんは何者じゃい?

「とっても楽しいことがあっったんじゃないの?」くらいの配慮をしてよ。

バギーで散歩していたら、通りかかったおばさんが頭のてっぺんから爪の先まで

舐めるようにこうくんを観察した挙げ句に

「何?この子、目が悪いの?」

おいおい、そういう言い方ないんじゃない?

別に、こうくんの障害を隠すつもりは全然ない。隠したことなんてない。

でも、失礼な人には説明する気が失せる。

そう考えると、くだんの写真館はホントに快適だった。(日本なのに)

こうくんのためにみんなが一生懸命考えて、いいと思うことをやってくれた。

そういう配慮があったおかげで、諦めていたこうくんの1人の写真が撮れた。



理解しようなんて思ってくれなくていい。

私だって自閉症(しかもこうくんの同じタイプ)以外は全然分からない。

ただ、気にかけてくれるだけで、ほんの少し配慮してくれるだけで

それだけで、私達は普通に生活できる。

ああ、この子は配慮が必要な、スペシャルニードの子供なんだと

そう思ってくれるだけでいい。

世の中には配慮が必要な人達がいて、それはごく当たり前の事なのに、

その当たり前が通じない社会、日本。



友人から聞いた話。

足にハンデがあって歩けない小学生の男の子が母親に背負われていたら、

「そんなに大きいのにオンブされて恥ずかしいよ」と注意するおばさんがいたそうだ。

大きいのに背負われているのには理由があるとは思わないのか。

どうして「お母さんのオンブでいいね」とにこやかに言えんのだっ。



「障害」は周りの人間が作ったモノ。

配慮が必要なだけです。

(2001.2.17)