《3》悟りの境地


こうくんは、現在4歳10ヶ月だが、オムツをしている。

多分、5歳になっても6歳になっても取れないだろう。

10歳位までに取れたらラッキーかな、と思っている。

「自閉症児は、ある日突然取れる」という話もあるので、それに期待しよう。

何せ、いくら小柄とはいえ紙オムツのサイズがなくなってくるからね。


閑話休題。

ある時、母は親友Sと長電話をしていた。

くだらないバカ話に興じ(ごめん、S)十分ストレスを発散し、満足して

電話を切り、ふと気づくとさっきまでTVを見ていたこうくんがいない。

「やばい・・・・」

母のカンは大抵当たる。

こうくんと母の寝室からプ〜ンとあの香ばしいニホヒが漂ってきた。

果たして・・・・・・

寝室のカーペットや布団はうんち粘土でドロドロ。

こうくんは幸せそうに笑って、オシリ丸出しのまま壁や窓にアートしている

真っ最中だった。

ギョエ〜〜〜と叫び、バスルームに走りドアを開け、寝室に戻ってこうくんを

後ろ向きに抱っこ。(前に抱いたら母の服が汚れるじゃんか〜〜)

うんちを廊下に落とさないよう気を付けてバスルームに運び、

取りあえずシャワーできれいにしてバスタブに少しお湯をはる。

こうくんをお湯に入れて遊ばせ、その間に寝室の掃除。

これは・・・ご想像におまかせします。

泣けるよ、ホント。


40分後、何とかきれいにしてバスルームへ戻ると、予想通り

こうくんは洗面台にかわいくチョコンと腰掛けて床を水浸しにしていた。

こうくんに服を着せて居間に放ち、バスルームのお掃除。

もう、便器までピカピカよ。


居間に戻ると床は紙粘土と化した新聞紙とティッシュであふれ、

こうくんは今まで一度も興味を示したことのなかった

TVの上の観葉植物と戯れていた。

葉っぱをちぎり、土を頭からかぶりキャッキャと飛び跳ね

カーペットに振りまいていた。

ははははは・・・

また、シャワーかい。

腐葉土って掃除機で吸っても大丈夫かな・・・・・?


かくして、母はこうくんが何をしても驚かなくなった。

驚いたり怒ったりする前に、ピピッとお掃除モードに切り替わってしまう。

「いかに素早く周りに広げることなくキレイにするか」

で頭の中はいっぱいになる。


修行の足りない父は、常々母のことをマリア様、観音様と崇め奉っている。

何しろ父は、こうくんがおみそ汁で遊んで顔と服をお豆腐まみれにした位で

逆上し、しばく。

当然、豆腐が飛び散り床まで汚れ、お掃除は2倍になる。

汚した人が片づけるのが我が家の掟なので、(もちろん、こうくんは別)

父は一声怒鳴った後、黙々と床を拭き椅子の脚についた汁をきれいにし、

こうくんの手や顔を拭く。

その横で何事も起きていないかのように平然と箸を進める母は

父に言わせるとどうやら「悟り」の境地に達しているらしい。



<追記>

父の名誉のために加えておきますと、

「こうくんをしばく」といっても、べつにひっぱたく訳ではありません。

こうくんが手に持っているお椀をパシーンとやるんです。

で、こうくんがびっくりお目めになる。

父はこれが大事だと考えているんです。

もちろん、パシーンとやって一声怒鳴らないと自分の気持ちが

収まらないってのが一番でしょうけど。

「やってはいけないこと」を教えるのはもちろん大事なことです。

ただ母はまだその時期ではないと考えているので教えていないだけで、

ほったらかしにしてる訳じゃありませんのよ。オホホ

(2000.12.10)